第17章 【五条/婚約者ネタ】牡丹に唐獅子、波に兎
「すまない。でも、事業が傾いて会社が潰れそうだったんだ。父さんの会社が。そしたら母さんも、妹のお前も……」
「……黙れ。五条悟の犬に成り下がったやつを兄とは思わない」
私は兄の部屋を飛び出して、その足で五条家の本家に乗り込んだ。
文書偽造で訴える。そのつもりだった。
鬼の形相で訪問した私を前に、本家の使用人は事前に分かっていたかのように屋敷に招き入れてくれる。
案内された応接間は、相変わらず威圧的な雰囲気に満ちていた。
床の間には古い掛け軸。
高価な調度品。
そして、悠々と座って待ち構えていた五条悟。
真っ黒いサングラス越しでも、あの青い瞳が私を見ているのがわかった。
「よく来たね。お茶でも飲む?」
「ふざけるな!」
私は離婚届を彼の前に叩きつけた。
「これにサインにしろ。今すぐに」
「やだ」
あっさりとした返答。
「じゃあ文書偽造で訴える。兄を脅迫した件も」
「へぇ」
五条悟は退屈そうに欠伸をした。
「君の父親の会社に金的援助、あとはお義兄さんに一級術師への推薦を約束しちゃったからねぇ」
彼は立ち上がり、私に近づいてきた。
身長差と視線に気圧される。私が後ずさりしようとしたが、彼の方が一瞬早かった。
大きな手に手首を掴まれる。
「……要するに、オマエは売られたワケ」
感情の読めない瞳が、私を見下ろす。
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