第17章 【五条/婚約者ネタ】牡丹に唐獅子、波に兎
それから数日後——
勝手に手続きされるなんて、現代に有り得ないと油断していた私は更なる追い打ちをかけられることになる。
念のため、婚姻届を偽造されないよう不受理申出の手続きをしようとしたところ、身に覚えのない結婚をしていることが明らかになった。
一向に信じていない私を前に、役所職員は面倒くさそうに記録を見せてくれた。
配偶者欄に記された名前を見て絶句した。
——五条悟。
手が震えた。
写しの紙を握りしめ、皺くちゃになるまで握りしめたまま、実家へ帰った。
うだつの上がらないクソ兄貴を問い詰めると、五条悟が暗躍していることを知った。
般若の形相で部屋に押し入った時、兄は青い顔をして震えていた。
「……す、すまない……でも、俺にも選択肢がなかったんだ」
「何があったの。全部話せ、文字通り“全部”だ」
自分でも驚くほど低く、冷たい声だった。
兄は観念したように語り始めた。
五条悟が直接会いに来たこと。
一級術師への推薦をちらつかせたこと。そして父の会社への資金援助を約束されたこと。
「婚姻届に押印するだけでいい、と言われたんだ。お前の代わりに」
「私の筆跡は?」
「……五条が、筆跡を真似た婚姻届を持ってきた。呪術を使ってるから、偽造だとは絶対に証明できないと言っていた」
私の剣幕に事の重大さを実感したのか、兄は冷や汗をかきながら頭を抱えていた。
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