第17章 【五条/婚約者ネタ】牡丹に唐獅子、波に兎
その知らせを受け取った時の屈辱は、今でも忘れられない。
思い出す度に、胃がぎゅうっと拗られるような心地がする。
私は処女だった。
誰とも寝たことなどなかった。
呪霊討伐に明け暮れ、恋愛など考える暇もなかった。
それなのに、娼婦のような扱いを受けた。
禪院家からの書状には、遠回しながらも侮蔑の意が込められていた。
「分家とはいえ、五条家の令嬢ともあろうお方にそのような噂があるとは」
「我が家の跡取りには、清廉潔白な女性を望んでおりますので」——。
誰だ。誰がそんな嘘を流した。
血眼になって調べてもわからなかった。
情報の出所は巧妙に隠蔽されていた。
犯人への糸口をつかんだと思ったら煙にまかれる。
その繰り返しで疲れた。
「もう誰とも結婚しない」
親族が集まる新年会の場で、酒をあおった私はヤケクソで宣言した。
「私の人生です。私が決めます。もう誰の思惑にも従いません。周りが無理矢理に結婚させようとするなら、尼にでもなります」
老人たちが顔を見合わせ、ざわめく中、私は宴会場を出ていった。
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