第17章 【五条/婚約者ネタ】牡丹に唐獅子、波に兎
「ゆめとだったら、結婚してもいいよ」
五条悟からのご指名。
その報せを聞いた時、私は耳を疑った。
本家の使者が我が家を訪れ、父と母が喜色満面で私を呼び出した応接間。
そこで告げられた言葉の意味を、最初は理解できなかった。
「おめでとう!悟くんがゆめを婚約者として指名してくださったんだ」
父の興奮した声。
「これで我が家も本家と直接繋がりができる。無下限呪術も、本家の血と混ざれば確実に次世代に受け継がれるでしょう」
母の涙ぐんだ顔を横目に、本家から直々の嫁候補のご指名を、私は秒で蹴った。
「お断りします」
想定外の返答に、使者の表情が凍りついた。
父と母が絶句する中、私ははっきりと言った。
「物心がついた頃から、殺したいほど大嫌いだった御方と結婚など、笑えない冗談です。他を当たってください」
その後、両親から何度も説得された。
親戚中から電話がかかってきた。
「五条家の本家との繋がりを断つ気か」
「お前一人のわがままで多くの者が不利益を被る」
「光栄なことなのだから考え直せ」
——私の心配をしてくれる人は皆無で、予想通りの展開に、逆に笑いが込み上げた。
私は頑として首を縦に振らなかった。
あの男と一生を共にするくらいなら、独身を貫く人生で構わない。
そして、事件は起きた。
我が家と禪院家との婚約話が持ち上がった際、私が何人もの男性と一夜を共にしたことがあると、何者かから大嘘を先方に流され、曰く付きの女は不要と丁重にお断りされた。
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