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【呪術廻戦】撫子に口付けを【短編集】

第16章 【直哉/ if /17巻ネタ】反撃のルナール



部屋の前で、私は深く息を吸った。

襖を開けると、薄暗い部屋に彼の姿があった。


「ゆめ……まだおったんか」


すっかり牙を抜かれた獣のよう。

布団に横たわる彼の右目には、粗末な眼帯が巻かれている。

左半身は、わずかに痙攣するように震えていた。


「去ね、このどブス」


痛々しい。完全にかつての威勢のよさを失っている。

あんなに蔑んでいた"女"である禪院真希に敗北。

激しい戦いで片目の視力も失ったに等しい。

とどめに、恨みを買った家の者から背中を刺され、半身の麻痺が残った。

惘々(もうもう)とした目つきの負け犬が布団に転がっている。

禪院家が壊滅したあの日のことを、彼は頑なに語ろうとしない。

力の入ってない暴言で、婚約者の私をひたすらに遠ざけようとする。

私は彼の枕元に膝を折り、その顔を見つめた。

かつて見た狡猾な笑みは消え、ただ虚ろな諦めだけが浮かんでいる。


「……私の知っている禪院直哉は、そんな腑抜けではありません」

「反転術式持ちのオマエに、何が分かるんや」


彼は顔を背けた。

右手だけが、力なく布団を掴む。


「コッチは……こないな術式使えん体で、地面這いつくばるしか出来ひん。どいつもこいつも馬鹿にしよって……っ」


その声に滲む絶望が、胸を締め付ける。


「分かります。ずっとあなただけを見ていましたから」


血の気のない頬に手を伸ばした。彼の体が、びくりと震える。


「っ、この女……その口、二度と開けんように……」


威嚇するような言葉。

だが、その目には涙が浮かんでいた。




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