第16章 【直哉/ if /17巻ネタ】反撃のルナール
かつて誰よりも高みを目指していた男が、今は這い上がる気力さえ失っている。
それでも私は、諦めない。
「では、縛りを交わしましょう」
私は彼の手を取った。
冷たく、震えていた。
血の巡りが悪いのか、生気もなく肌の張りもない手の甲。
優しくさすりながら触れ、子どもに言い聞かせるように、目を合わせて話す。
「私は、あなたのためだけに力を使います。傷がついた眼球には視力は戻りませんが、あなたの麻痺した半身が元に戻るように、以前と遜色なく動けるように、反転術式で他者を癒す力を更に磨きます」
「……なに、を……俺はもう——」
「何年かかってもいいから私に見せて下さい、あなたの晴れ姿を」
返り咲いたあなたが君臨する禪院家の頂。
禪院家当主 直哉が王座に就く。
その瞬間は、何にも代え難い宝となるだろう。
「オマエ……本気で言うてるんか」
「はい。あなたが這い上がる姿を、この目で見るまで、私は決して離れません」
彼の手を、私は両の手で強く握りしめる。
伏せられていた睫毛が上を向く。
切れ長の瞳に、わずかに光が宿った。
まだ消えていない。あの貪欲な炎は、まだ燻っている。
ならば私は、その火を再び燃え上がらせよう。
たとえ幾年かかろうとも。
狐は、再び牙を研ぎ始める。
そしていつか、禪院家の頂で、彼は誰よりも高らかに笑うのだ。
END.