第13章 【高専五条/お題】林檎の花が咲く頃に
そして、そのまま親指でふにふにと何度も唇の感触を確かめている。不意の出来事に、目を見開いて固まってしまった。
五条くんはそんな私を気にすることなく、そのまま唇をふにふにと触り続ける。
「な、なに……」
「やわらか」
私が拒否を示すように小さく首を振ると、五条くんはサングラス越しの目を細めた。
それから私の唇に指を這わせたまま言う。
「俺以外の奴の前でそんな顔するなよ?」
「そ……そんな顔ってどんな顔?」
私が小さく言うと、五条くんは「んー」と首を傾げた後、私にぐっと顔を近づけた。
五条くんの綺麗な顔が吐息を感じるほど近くにある。胸が破裂するんじゃないかってくらいうるさくて、息が詰まる。
「俺がこのままキスしたくなるような顔」
「な、何言ってんの!?」
私が動揺して叫ぶように声を上擦らせると、五条くんは口端を上げて、私の唇に当てていた指を離した。それからいつものような笑みを浮かべる。
「ま、冗談だけど」
「冗談って……」
私はバクバクと暴れる心臓を落ち着かせるために、胸に手を置いて小さく深呼吸をする。五条くんのわざとらしい溜め息が聞こえた。
「オマエさぁ、俺のこと好きすぎだろ」
「ち、違う!五条くんの冗談は心臓に悪いの!」
私が大きな声で反論すると、五条くんは楽しそうに笑った。
全部見透かされそうで、私はその視線から逃れるように顔を背ける。
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