第12章 【ほのぼの甘】五条先生と夏油先生
「っ、は……やり過ぎてしまったかな?」
「ま、大丈夫っしょ。……うへぇ、血の味がすんだけど」
気を抜いて構えを解いた先生方は、取り巻く生徒たちの声に全く気にも留めず呑気に言葉を交わしている。
五条先生は口端が切れてるし、夏油先生は鼻血も出ていて頬がほんのり赤くなってしまっている。
辺りに響いた鈍い殴り合いの音から、とんでもない威力の打撃を受けているはず。
体が頑丈なせいか、二名ともにそれほどダメージを受けた様子はなかった。
ペッと口から血を吐き出して、手の甲で口端の血を拭った五条先生が生徒側の方に歩み寄ってくる。
「久しぶりの手合わせなのに、随分ガチになったなぁ」
「つい本気になってね、悟に久々に思い切りやられたよ」
どこか楽し気に顔を見合わせて会話をする二人の間には、そこには気心知れた相手にしか見せない、やわらかく穏やかな空気が流れていた。
すっかり落ち着いた様子だったかと思えば、次の瞬間にはふと喧嘩をふっかけてしまう五条先生と、余裕ありげに難なく回避して涼しい顔をする夏油先生。
やはり、対照的な二人は根底のノリは一緒なんだと思うとなんだか面白い。
「今回は勝負ってほどの結果じゃないけど、まずはこれで痛み分けかな。生徒の前で我を忘れて喧嘩するわけにはいかないしね」
「負けたくせになんでそんなドヤ顔なの。てか、僕が勝ったのに」
「悟、しれっと勝利宣言しないでくれないか。どう見てもドローだ」
またも軽口の言い合いの応酬が繰り広げられ、こちらも自然と笑顔になってしまう。
五条先生と夏油先生は高専時代から一緒らしい。本当に楽しそうで、そういう昔馴染みの関係って良いなぁと憧れる。
「大体、学生時代から一緒に居るくせに、ケンカばっかでよく飽きねぇな」
真希は苦い顔をして二人を見つめていた。
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