第2章 無邪気な天使は悪魔な肉食獣
なんなの。
なんでいきなりこんな甘い雰囲気。
そんなのわざわざ、出してくれなくても、いい。
「キスしていい?雪乃さん」
「い、いちいち聞くな!!」
さっきから、額やら頬やら首筋にチュ、チュ触れる唇。
なんかもう。
ほんとにこーゆーの、久々すぎてどんな顔すればいいかわかんない。
「…………目、閉じないでちゃんと見て、雪乃さん」
顔を隠す腕は両手とも捕まってベッドに手首ごと縫い止められた。
だから。
恥ずかしく直視出来ない彼の視線から逃れる手段はもうこれだけ。
顔を目一杯そらして、目をぎゅううって閉じるしか、ない。
ない。
のに。
それすらも彼は許してくれない。
「昨日は俺、全然余裕なくて。ちゃんと雪乃さん見れなかったから、ちゃんと見てたい。」
「や、やだ。こんなの恥ずかしくて、無理」
「ねぇ雪乃さん………」
さらにキツく目を閉じれば。
唇に触れる、熱い感触。
「口、開けて………?」
「っ」
なぞるように指先が唇に触れて。
割って、指先が歯列を、なぞる。
なんなの。
これ。
ゾクゾクする。
触られたとこ、熱い………っ。
ゆっくりと視線を戻して、少しだけ口をひらけば。
嬉しそうにくったくなく笑う、彼と目が合った。
瞬間。
「んぅ………っ」
勢いよく舌先が口の中へと入ってきた。
唾液を絡ませて。
奥歯からなぞるように舌が口の中を蹂躙する。
決して強引じゃないのに。
優しく触れられてるのに。
息できない。
逆らえない。
すごく、気持ちいい。
「…………雪乃さん、かわいい」
漸く唇が離された頃、透明な糸がつたって、切れて。
彼が唾液まみれの自分の唇を、舐めた。
「おいし」
ゾク、て。
した。
目を細めて唇を舐め上げるその姿があまりにも、普段の彼とかけはられすぎてて。
いつも無邪気な小鳥遊くん。
誰にでも懐っこくて、一部じゃ天使、なんて呼ばれてる。