第2章 無邪気な天使は悪魔な肉食獣
「…………」
「…………」
沈黙。
さらに沈黙。
のち。
「…………え?」
やっと口から出てきた言葉にしては、上出来だと思う。
「食事、なんです」
正座したまま膝の上にある拳にぎゅ、と力を入れて。
意を決したように彼は、同じように目を閉じて呟いた。
「俺、今までずっと夢の中で『ああ』やって飯、喰ってたんですけど。最近なんてゆーか美味しくなくて、全然喰えてなくて。それで昨日………。その、小山内さん、すごく、キス、した時美味しくて…………」
「…………」
トロン、て目を潤ませて。
こっちを彼がじ、って見るから。
おかしい。
こっちまで暑くなってくる。
「全然歯止め効かなくて俺ほんと、余裕なくて。ほんと…………、すみませんでした!!」
いきなり目の前で土下座する後輩にビクン、てたじろぎながらも。
とりあえず。
待って。
今。
頑張って理解するから。
理解。
理解。
りかい…………。
「…………ぅう」
無理だ。
頭まわらないのかあたしの知識が乏しいのか。
さっぱり言ってることが理解出来ない。
「あ、あの小山内さん」
バタンて。
ベッドに倒れ込んだあたしを上から見下ろして。
彼が潤んだ瞳そのままに、あたしを見る。
「…………っ」
なんなのその顔。
かわいすぎなんだけど。
さっきから。
反則じゃないですか…………っ?
「今、付き合ってる人、とか」
「え」
「好きな、人、とか」
「…………」
え。
え。
待って。
待ってこれ。
このシチュって。
「いたり、しますか?」
「…………」
ええ。
何これ。
そーゆーことなの?
やっぱりそーゆー意味?
ってゆーかなんでこの子こんなにかわいいの!?
女子社員がきゃーきゃー言うの、ちょッとわかる気がする。
長いまつ毛。
伏せめがちのおっきい目。
きゅるんきゅるんしてそうな、おっきな目。
こんな顔で見つめられたら、誰だってドキドキしちゃうよ。
絶対。
「小山内さん?」
「っ」
やば。
思わずあたし今。
何しようと…………。
いくらかわいいからって食べてどーする。
これじゃ立場逆だってば。
「小山内さん、もし、いないなら」
ゴクリ。
知らずに唾液が、喉を鳴らす。