第2章 無邪気な天使は悪魔な肉食獣
「ごめんなさいっっっ!!」
散々抱き潰されて。
声も枯れ果てて。
指先一本動かせない、だるすぎる身体を闇に投げ出した、数時間後。
目を覚ましたあたしの横で。
かわいい後輩が頭を下げた。
「…………」
ボーっっとする頭の中。
ひたすら頭を下げる後輩の姿だけが、視界いっぱいうつりこんだんだ。
「ほんとにほんとに、すみませんでした!!」
「いや、うん、キミを受け入れたのはあたし、だし。別に全部小鳥遊くんが悪いわけじゃないってゆーか…………」
気を取り直し。
冷蔵庫からミネラルウォーターをふたつ、取り出して。
ひとつは彼に。
ひとつは自分で飲み干しながら、なぜか対面で同じく正座。
気まずすぎて。
顔が全然見れない。
どんだけ流されてんだ、あたし。
「違うんです」
「?」
「違うんです、小山内さんが何にもできないのは当然のことで」
「何それ」
力の差、とか。
女だからとか男だからとか。
そんなのいい分けにする気、ないんだけど。
少しだけ落ちた声のトーン。
ありありと表面に出したわけでもない不機嫌さを、彼は簡単に汲み取る。
慌てて顔を上げて否定した。
「違う、違います!!別に言い訳にするつもりとかもなくて」
そーだ。
この子、こっちの意図を汲み取るのがすごく上手いんだ。
普通なら受け流すくらいの不機嫌トーン。
あの一言だけで。
この子、あたしが気に障ったの、理解してる。
「…………ほんとに、小山内さんはただの被害者、なんです」
「だから」
「夢魔、なんです!!」
さらにイラッと口を開いた言葉に被せられた、聞きなれない言葉。
一瞬眠さや怠さも手伝ってか、思考回路が麻痺した。
「…………〜〜〜あれが、俺にとっての食事なんです!!」
ヤケでもおこしたように。
彼は一気に早口でまくしたてた。