第1章 Bocca della Verità 死柄木弔(ヒロアカ)
「あら、ずいぶんとイメチェンしたのね」
艶かしい女の声がして、死柄木は薄目を開けた
見たことも聞いたこともないはずなのに、それが誰の声であるか瞬時に理解した
「何だこれは、夢にまで見るほどお前に会いたかったとはな」
まだ身体は鉛のように重く、死柄木はベッドに寝そべったまま呟く
「あら、私のことをご存知だったなんて光栄だわ」
ちっとも光栄だと思っていないであろう口ぶりで彼女が答える
「…どうして俺をわざわざ起こした?そのまま殺りゃ良かったのに」
ボッカデラベリタの個性
キスでターゲットを壊死させる…のではないのか?
それなら俺のことを起こさずに、口付ければよかったのに
コイツの個性はなんだ
死柄木は目の前の女について考えを巡らせながら、上半身を起こす
女は噂通り喪服を着て、顔にレースのヴェールを纏っている
想像をはるかに凌駕する美貌に思わず息を呑む
真っ赤なルージュを引いた肉感的な唇
脳神経に直接触れてくるような声
ヴェールの向こう側の暗い瞳
そう言えばコイツの母親は異性を操る個性持ちだったとか…
見惚れてしまってる俺はもはや術中にハマってるのか…
死柄木はそう考え、それも悪くないと思う
「俺もちょうどお前を探してたんだ」
「あら、奇遇ね」
「ああ、ソッチから来てくれるとは都合がいい」
「私に何の用かしら?」
「お前を凌辱して壊すため」
「あら怖い」
全く声のトーンを変えずに彼女が言う
どういうことだ
レイプして殺すって言われてんのに、いやに落ち着いてやがる
この余裕は何だ
俺に勝つ絶対的な自信があるってことか
死柄木は怪訝な表情でボッカデラベリタを見る
彼女もまた薄らと笑みを顔に張り付けて死柄木を見つめる
その暗い瞳に惹き寄せられるように立ち上がり、彼女の元へ近づく
自分で言うのも何だが、こんな風貌の男が近づいてきて
しかも五指で触れられれば崩壊する個性だと分かっていて
何故コイツは微動だにしないのか
「お前さぁ…俺の個性知ってんだろ?」
「勿論」
ドンっ
壁に女を押し付け、目の前で包帯が巻かれた指をヒラヒラと動かす
「この手でお前に触れたら、即ゲームオーバー…だろ?」
「…そうね、でもあなたはまだ私を壊したりしない
そうでしょう?」