第1章 Bocca della Verità 死柄木弔(ヒロアカ)
「ヒーローがヴィランに種付されて、こんなに悦んでちゃダメだろ」
「だって…弔が…」
「転弧…」
「…て…なに?」
「俺の元の名前」
死柄木は誰にも…それこそ仲間の誰にも言ったことのない、自身の本当の名前を何故か、歩に告げた
それが何故、と言われると自分でもわからない
誰かに全てを受け入れてほしかったのかもしれない
「転弧…」
「ッッ…やめろ、その声で呼ぶなよ…おかしくなるから」
「クスクス…おかしな人…自分で言ったんじゃない」
「うるせぇ、犯すぞ」
そう言って死柄木は歩を仰向けにし、ベッドに組み敷く
「転弧はどんな男の子だった?」
死柄木を見上げるようにしながら、歩が訊ねる
「俺は…俺はヒーローになりたかった」
「え……」
「勘違いすんなよ、ガキの時の話だ」
「今度はあなたの番よ、私に教えて…全部」
歩に耳元で言われ、直接声が脳髄に響く
それから口を開いて、自分の過去のことを全て話したのは彼女の個性のせいか…それとも自分の意思だったのだろうか
裕福な家庭に産まれたこと、父以外の家族は皆優しかったこと、父はヒーローになることを許さず、幼い転弧を折檻していたこと
「父以外の家族は、優しかったけれど…俺を助けてはくれなかった…ヒーローになっていいって誰も肯定してくれなかった…結局みんな、父には逆らえなかった」
「それで…家族を?」
「初めは溜まり溜まった感情がコントロール出来なくなって、お前と同じさ…個性が特別変異した」
「じゃあ…あなたも最初は殺意なんてなかったんじゃない」
「俺はただ、手を繋いでほしかっただけなのかもしれない。必死に伸ばした手で、触れた途端…家族はみんな壊れていった」
死柄木がそう呟くと歩は押さえつけられていた腕を伸ばして、彼を優しく包み込んだ
「歩…」
死柄木もまた強く歩を抱き締める
セックスしたことは何度もあったけど、誰かを抱きしめたことも、抱きしめられたこともなかった
「でもお前とは違う、俺はその後すぐに明確な殺意を持って、父を殺した」