第1章 Bocca della Verità 死柄木弔(ヒロアカ)
家に戻った歩の様子を見て、母は全てを悟った
もう、何も考えたくない…
歩は泥のように眠り、全てを忘れようとした
なかったことにしよう
きっと目を覚ませばナオはまだ生きていて、私のことなんて忘れて幸せに生きていくんだ
自分にそう言い聞かせ、深い深い眠りの中に堕ちていった
どれぐらい眠っていたのだろう
夢か現か分からないまま目を覚ました歩は、ゆっくりと起き上がった
そして自分の祈りが届かなかったことに気付く
穢れた制服と下腹部の痛み
それが全て現実だったと物語っている
〜♪
タイミングよく電話が鳴った
と、思っただけで、もしかすると眠っている間にも何度か掛かってきていたのかもしれない
見たことのない電話番号
それも固定電話
「…もしもし?」
「あ、橘 歩様のお電話でしょうか?私、○○県警の者です」
ドクンと心臓が波打つ
警察…しかも県警…
きっとナオの死体が見つかったんだ
そっか、私逮捕されるんだ
仕方ないよね
「はい…そうです」
「落ち着いて聞いてください、昨日岬の教会の近くで交通事故があって…お母様がお亡くなりになりました」
「は?」
待って、思っていたのと違う
訳がわからない
ハァハァと呼吸が速くなる
息をしているはずなのに苦しくて
脳に酸素が回っていないのを感じる
そのまま視界がモザイクのように歪み
歩は意識を手放した
過呼吸だったんだろう
でも死ぬならそれでもいい
全部悪い夢だったと思いながら
彼女は死を望んだ
次に彼女が目覚めたのは病院のベッドの上
まず初めに感じたのは死にきれなかった絶望…
目覚めて数時間後、刑事が病室を訪れた
「大丈夫ですか?私と電話している時に気を失われたものですから、慌てて救助に向かいました」
「…助けてくれなくて良かったのに」
「え?」
「私が!私が死ねば良かったんです!殺してください!もお…ほっといてください」
取り乱す歩