第1章 Bocca della Verità 死柄木弔(ヒロアカ)
ナオは明るく誰からも好かれる生徒だった
ヴィランの手によって両親を失った彼は、ヒーローになるという強い意志を持っていた
彼からはほぼ毎日他愛のないメッセージが送られてきて、歩もいつしかそれを心待ちにするようになっていた
ーそうしてある日
「橘さん、俺は君のことが好きだよ」
と告白された
歩は手元のスマホを取り出すと
"私もナオのことが好き、でも付き合うことはできない"
そう打ち込んで画面を彼に見せた
「どうして?」
"私の個性はあなたを不幸にする"
「そんなことない、今だって別に俺は操られてなんかない!橘さんは眼鏡をかけてるし、声も聞いてない、それでも好きでたまらない…これは俺の意思だよ」
ナオは引き下がらなかった
歩も彼に好意を抱いていたのだから、こうして食い下がられると断ることは出来ず、2人の交際は始まった
それでも個性が発動することを恐れて歩は言葉を発さずに、必要以上に接近することを避け続けた
しかし、好き合う若い男女が一緒にいればその心が操られていなかったとしても、相手に触れたいと思うのは自然で、それは2人とて例外ではなかった
「歩、俺は一生このまま君を抱きしめることも出来ないのかな?」
ある日の放課後、寂しそうにナオが呟いた
歩だって愛する人の手を握って、愛の言葉を囁いて、抱き合い、そして…愛し合いたい
けれど…牧師の最期が脳裏にこびりついて離れない
切断された陰茎が何か別のモノのように体内で蠢く感触
断末魔の叫びをあげながら腐っていく様
もしも自分のせいで彼があんな風になってしまったら…
それは別れるよりももっと辛いこと
歩は首を振る
「どうして?君の個性は、ただ異性を操るだけだろ?俺は別に歩に操られても構わない」
彼は歩の本当の個性を知らない
いつまでも隠すことは出来ない
歩は意を決して、スマホに入力をし始める
"私の個性は『真実の口』
異性を惑し、誘き寄せ、死に至らしめる人殺しの個性"
彼は画面を食い入るように見つめる
「どういうこと?」