第1章 Bocca della Verità 死柄木弔(ヒロアカ)
ー5年前
女子中学出身で、過去のトラウマもあり歩が異性と交流することはほとんどなかった
しかし体育祭で男子と触れ合う機会の多かった歩は気分が悪くなり、人気のない場所で座り込んでいた
「…橘さん…だよね?大丈夫?」
声をかけてくれたのはクラスメイトの男子、ナオだった
歩が顔を上げるとナオは冷えたスポーツドリンクを差し出した
「医務室いく?」
男性との過度な触れ合いによるストレス、理由は分かっているし医務室に行ったところで良くなるものでもない
歩はフルフルと首を横に振った
「橘さんって、話せないわけじゃなかったんだね!俺ビックリしたよ」
ナオが隣に腰を下ろしながら言う
数時間前、個人トーナメント戦で歩は第一試合、ナオと対戦したのだった
そしてその時みんなの前で初めて個性を使った
試合開始の合図とともに歩は眼鏡を外し、ゆっくりとナオに近づいていった
歩に見つめられたナオは恍惚とした表情で彼女に見惚れ、微動だにしない
歩はナオの傍まで来ると、耳元で
「棄権なさい」
と囁いたのだった
それがナオにとって、初めて彼女の声を聞いた瞬間だった
「驚いたよ、気づいたら俺、棄権しますって言っちゃってたんだもんな〜本当凄い個性だね!」
隣に座るナオが明るく笑う
「ねぇ、話せないわけじゃないなら話してよ?俺もっと橘さんと仲良くなりたいな」
そう言って彼はズイッと近づくが、歩は過去のトラウマから反射的に避けてしまった
少し傷ついたような彼の表情に心が痛んだ歩はスマホを取り出し、文字を打ち込む
"ごめんね、悪気はないの
男の人が苦手で"
"あと私の個性は目と声で異性に影響を与えるから、話すのはやめたほうがいいと思う"
そう入力した画面を彼に見せた
彼はウンウンと頷くと
「分かった!じゃあ連絡先交換しよう、文字のやりとりならコミュニケーション出来るでしょ?」
そう言って歩からスマホを取り上げた
「はい、これ俺の連絡先ね!」
ナオは自分の連絡先を入力して歩にスマホを渡すと、仲間によばれ慌ただしく去っていった