第1章 Bocca della Verità 死柄木弔(ヒロアカ)
私ももしかしたら、この個性のせいで本当に愛する人と結ばれることは困難なのかもしれない
それでも母のような母になりたい
なんてことを考えながら歩が顔を上げると、母は泣いていた
「…ごめんね、ごめんね…あの日私が…あなたから目を離さなければ…」
「え?…ママ、急にどうしたの?」
「…あなたの個性は…真実の口は…より強い接触によって相手を興奮させ、あなた自身の中に招き入れるように思考を操り…そして…男性器が挿入されたら…それを切断する」
「…」
フラッシュバックする
牧師の顔
息遣い
匂い
体温
違和感
激痛
…何かが身体の中で千切れる感触
そして牧師の断末魔
「オェェェェェェ」
歩は床に崩れ落ち嘔吐する
「そして…切断された相手は、男性器の付け根から徐々に壊死し…死に至る」
個性に溢れたこの時代でも、直接的に死に結びつく個性は多くない
自分の身に起こったトラウマを思い出しただけでなく、自分の個性は人を死に至らしめるものであると知った歩は激しく取り乱した
そして、挿入された男性器が切断される
ーということはすなわち、自分が愛する人と愛し合うことも子を成すことも叶わない
その現実に歩は絶望した
「…じゃあ私は…ママにはなれないの?」
泣きながら問う娘に、母は嗚咽をこらえながら必死に言葉を紡ぐ
「…方法としてはなくはないと思う、現代の医療技術を持ってすれば」
すなわち人工受精や体外受精と言うことだろう
「それに、この個性にはある言い伝えがあるの」
「言い伝え?」
「この個性は"真実のパートナー"には発動しない」
「真実のパートナー…」
さながら真実の口というわけか
ローマにある真実の口は偽りの心があるものが手を差し入れると、その手を食い千切られるという
歩の個性も然りで、相手が真実のパートナーである場合は切断されることはないというのだ
「この個性はね、橘家の女性の中でも特に優れた器にのみ時折発現する能力なの」
「…私の他にもいたってこと?」
歩が訊ねると母は頷いた