第1章 Bocca della Verità 死柄木弔(ヒロアカ)
ー数年前
「歩…よく聞いて、今からあなたの個性について大事な話をするから」
母親がたっぷりとミルクティーを注いだマグカップを2つ机に置いて、向かいの椅子に座る
「わかった」
「思い出したくもないと思うけど…あの日教会で起きたことは覚えてる?」
「…うん」
「あなたの個性は私とは違う、"真実の口"というものよ」
「…真実の口?」
初めて聞く個性だった
というか、聞いたところでどんな個性なのか検討もつかない
電気とか炎とかじゃないし…
「あの日のショッキングな出来事が、あなたの個性を歪めて突然変異したっていうのは何となく分かるわよね?」
「…うん」
母はオブラートに包みながら話をしてくれるが、それでも歩の脳裏にはあの時の牧師の顔が、感触が蘇って吐き気を催す
「…ごめんね歩、顔色が…」
心配した母が話を中断しようとしたが、歩は
「大丈夫、続けて」
と言った
「声や眼差しで異性の思考を操る…ここまでは私と同じ個性」
知ってる…
だから歩は女子中学校に通っている
「更に…耳元近くで囁いたり、キスをしたり…より深く触れ合えば触れ合うほど相手を強く支配できる…これも私と同じ」
それは知らなかった
何故なら歩はこれまで、異性と触れ合う機会がほとんどなく、耳元で愛を囁くような相手もシチュエーションもなかったからだ
「今はまだ中学生だから経験なかったかもしれないけれど、あなたもこれから高校生になって、大人になって恋をするかもしれない…その前に知っておいて欲しかったの」
「…そうだね、この個性だと本当に好きになってもらったのか洗脳してるだけなのかよく分かんないもんね」
「…そうよ、悪意を持って相手を操るのには向いている個性だけど…好意は…正直今でもよくわからない」
母はそう言って少し困ったように笑った
「思ったより難しい個性なんだね、ママも苦労したでしょ」
「…そうね、でもママはあなたに会えたからそれでいいの」
もしかしたら父と母は本当に心を通わせていたわけではなく、母の個性によって交わっただけなのかもしれない
そんな風にして産まれた私でも母は会えて良かったと言ってくれた