第1章 Bocca della Verità 死柄木弔(ヒロアカ)
「お父さんは本当に良くしてくれた…身寄りのない私たち母娘に親切にしてくれて、習いごとも望めば全てさせてくれたの」
でも…と言って歩は暗い表情になる
「8歳になったある日曜、礼拝の後私はお父さんから一人チャペルに残るように言われたの…今でも覚えてる…いつものお父さんの顔じゃなかった」
死柄木は話の行き着く先を何となく悟った
歩は父親がわりと思って慕っていた牧師に性的虐待を受けたのだった
「お父さん、どうしたの?!やめて!」
「どうしたの?だと…母娘揃って男を誑かす卑しい目つきをしおって!」
そう言って牧師は歩に馬乗りになり、スカートを捲り上げるとショーツを乱暴に破り捨てた
「お父さん!やめてーーーっ!」
「私は悪くない、悪いのはお前の個性だ!男を惑わす売女の個性だ!」
見たこともないグロテスクな肉棒を突き立てられ、痛みと悲しみと憎悪のあまり歩は半狂乱になった
「イヤァァァァァ!」
その瞬間ブチッと肉の千切れる音がし、歩の上に馬乗りになっていた牧師が苦しみ出した
「ギェェェェェェ!!!」
歩は断末魔をあげる牧師の様子に、何が起きたか分からず呆然としていた
やがてもがき苦しみ、のたうち回っていた牧師が動かなくなった
娘の叫び声を聞いて駆けつけた母親は、娘の乱れた衣服を見ると一瞬にして事態を悟った
母親は警察に対して虚偽の証言をした
正当防衛ではあるが、突然変異により発現したこの危険な個性が公になることを恐れたためである
母親は異性を操る能力で、教会関係者にも怪しまれずに素知らぬ顔で葬儀にも参列したという
「…で、テメェのコスチュームはカトリックの喪服ってわけか」
死柄木が言うと歩は頷いた
「この十字架をつけてると、何故だか心が落ち着くの…」
歩にとっての十字架は死柄木にとっての家族たちの手のようなものかもしれない
心が落ち着く存在であると同時に、自身を過去に縛り付ける鎖でもある
話を聞くうちに死柄木は、歩のことを他人とは思えないようになっていた