第5章 やっと追いついた!
エニシが戸をバタンと閉めたところで、布団に入っていたイタチは起き上がる。
「鬼鮫、出るぞ。」
彼女が朝、食べ物を探しにいっている間に二人で決めた事だった。
「えぇ、いつでも出れますよ。」
鬼鮫は答えて、隅に纏めてあった荷物を持つ。
イタチはそれを見ながら、布団から出て暁のローブを纏った。
二人は無言で影分身を出し、靴を履いて戸口へと向かう。
「……。」
イタチはふと、後ろ髪引かれる様に立ち止まり、振り返った。
『布団かけてくれてありがとね。すっごいあったかかった。』
エニシの声が蘇る。
屈託ない、影など何処にもない笑顔を向けられて、思わず昔に戻ったかの様な錯覚を覚えた。
エニシが、シスイによく似た顔立ちなのも手伝ったのだろう。
近い未来に来るであろう”いつか”まで、自分が人の温もりに触れる事など、もう無いと覚悟していた。
殺伐とした世界で、時と共にその記憶さえ朧げになっていく中で、それはもう必要のないモノ、と自身の中で判じていた筈なのに…。
不意に触れてしまったそれは、思った以上に温かくて、枯れた土が水を吸う様に自身の中に染み込んできた。
イタチはぎゅっと両手を握り込む。
―これ以上は駄目だ。
飢えを感じてはいけない、そんな資格はない、と彼は自身に言い聞かせる。
イタチの中には、小さな警鐘が鳴り始めていた。
思うままにそれを欲すれば、立ち止まってしまう予感があった。
だが、それでは駄目なのだ。
彼には、どうしてもやらなければいけない事がある。
―これで、いいんだ。
イタチは糸を断ち切る様に前を向いた。