第2章 ここから、また始まる
「「「いただきます。」」」
私達は、隣町のとある蕎麦屋で腹拵えをする事にした。
「…で、今回は幾ら負けたんですか?」
私がげんなりしながら綱手様に尋ねると、思い出す様な仕草をした後、三本の指を立てて見せた。
「三万両?」
首を傾げながら聞くと、
「三百万両だ。」
と返ってきた。
この人、馬鹿なの?
「「はぁぁぁ〜…。」」
シズネさんと私は思わず、重いため息をついた。
「な、なんだ。」
たじろぐくらいには悪いって自覚が少しはあるのかしら。
「なんだ、じゃないっすよ。負けるって分かってるのに、何で毎度大金ぶっ込むんですか。」
何で負ける賭け事に、そんなに夢中になれるのか。未だに理解できない。
「勝ってる時もあったんだ。」
負けじと言い募る綱手様に、私は半眼を向ける。
「それで最後の最後に大負けしてたら世話ないっすよ。最初から少ない額持ってけはいいじゃないですか。例えば十万両とか。」
日本円でおよそ100万円。
十分な額だと思う。っていうか、よく考えたら大金だ。
この人の感覚に釣られると、おかしくなる。
「そんな端金じゃ、賭けにならないじゃないか!」
「端金言わないでください。十分大金です。」
「賭けた気にならん!」
「空気だけ味わえば十分でしょう。」
「まぁまぁ。とりあえず、また一から貯め直しですね。」
シズネさんが仲裁に入り、私は一つため息をついた。
また、流離う生活が始まると思えば、ため息もつきたくなるでしょ!?
その代わり、きっと診療や治療をいっぱいやる事になるから症例に事欠かなくて勉強になるけど。
「しょうがない、頑張ります。」
「よし、その粋だ。」
私が言うと、人ごとの様に返す綱手様。
あんたが言うな!と心の中で叫び、思わず箸を握り締めた。