第5章 やっと追いついた!
「エニシ…。」
イタチは小さく呟くと、彼女の頬にそっと手を伸ばした。
暖かい温もりが伝わって、彼はほぅっと息をつく。
陽だまりの様なその存在に、心が少し解れていくのが分かった。
くすぐったい様な、それでいて切なくなる様な…。
何とも言えない心持ちになる。
手を離す気にはなれず、暫く撫でていると、エニシのまつ毛が震え出した。
そして、はらりと一筋…。
「…にぃ…ちゃん…。」
エニシの声に、頬を撫でていたイタチの手が止まる。
エニシの兄はたった一人しかいない。
うちはシスイ。
イタチにとって唯一無二の親友。
死んでほしくなかった。
助けられなかった、危険を察知出来なかった事が悔しかった。
シスイの計らいで開眼した万華鏡。
これを使う度にあの夜が過ぎる。
『…兄ちゃんが酷い事して、ごめんね。』
心底すまなそうに言ったエニシ。
そんな事ない、そう言ってやりたかった。
けれども、あの出来事はそんな軽はずみな言葉では片付けられない。
イタチの心を今なお、蝕み、傷つけているものだ。
シスイを恨む気持ちは全くない。
悪いのは、予測し得たのに気づけなかった己の爪の甘さだった。
―…俺の方こそ…、いや、俺の方が…。
「…ごめんな、エニシ。」
泣きたくなる様な胸の軋みを感じながら、イタチはエニシの頬を撫で続けた。