第5章 やっと追いついた!
イタチはふと目が覚める。
そして、久方ぶりに息苦しさが消えている事にまず驚いた。
―あぁ、本当に腕を上げたな…。
イタチは唇に薄く弧を描く。
過去の、彼女の実力から更に数段は実力が上がっているのではないかと肌身を持って実感した。
息苦しさが嘘の様に引いている。それだけでも体が幾分にも軽くなった様に思う。
寝かされているその部屋は、明かりもなく真っ暗で人の動きがない。
その様子から、時刻が真夜中である事が推測される。
鈴虫だろうか、リーンリーンと虫の声が静まり返った室内に良く響いていた。
ぐるりと視線を走らせて左隣を見ると、エニシがこちら向きですやすやと寝入っている。
イタチに対する警戒はまるで皆無だ。
彼女らしいと言えばそれまでだが、それが決して当たり前ではない事を彼は良く知っている。
何故なら、イタチが背負った十字架には、エニシの当たり前にあった”幸せ”も含まれているからだ。
本当ならば、エニシを遠ざけた方が互いの為になるだろう、とイタチは思う。
思うが、この温もりの近くにいたいという想いがある事も事実。
それ故に、強くは突き放せない。
イタチはそっと寝返りを打つ様に向きを変えると、エニシと向かい合う。
そうしてエニシを見ていると、様々な疑問が浮かんでは消えていく。
何故、どうして…、と。
問い詰めたい思いと、聞きたくない思いがせめぎ合う。