第15章 決別
「…いいだろう。」
彼は、エニシの手からするりと抜け出すと、すっと立ち上がる。
「呪印は、お前を殺さなければ消えないんだったな。」
そう言って、ポシェットから片手でクナイを二本抜く。
その刃には、悲しみに染まるエニシが映し出されている。
「お前は今日…、ここで、殺す。」
イタチは自分に言い聞かせるように、敢えて口にする。
想いに惑わされないように…。
一度目を閉じ、次に開いた時には紅い三つ巴が浮かんでいた。
それを見て、エニシは震えながらも両手を組んだ。
イタチの眼は、それが何の印なのかを瞬時に読み取る。
「「影分身!!」」
狭い室内で出来ることは限られている。
火遁は使えず、水遁は土遁相手に有効打にはならない。
ならば、確実に相手を追い詰めて、天照で捕らえるのが、一番の道筋だ。
飛び交うクナイを素早く避けながらも、エニシはイタチの一手一手に追い詰められていく。
彼女の影分身は一人、また一人と数を減らして、イタチの包囲網は逃げ道を次々と塞いでいく。
元々、刃を向けることが出来るイタチに対して、エニシは圧倒的に不利だった。
「…終わりだ。」
光を映さない冷酷な瞳がエニシを捕らえる。
彼女を覆うように周りから黒い炎がゆらゆらと立ち上る。
それは瞬く間にエニシを覆い、灼き尽くすだろう。
彼女は、体を守るように身を縮めて、ぎゅっと目を瞑った。
その時…。
ひゅん、とエニシの姿が消えた。
後ろに空いた僅かな切れ目に吸い込まれるようにして。
ー何が、起きた…?
イタチは分からないながらも、天照を鎮め、写輪眼を解く。
もう一度見回しても、壊れた家具が広がるばかりで、エニシの姿はなかった。
これと同じような忍術を、イタチは度々目にしていた。
考えられる能力は、万華鏡。
ー土壇場で、開花したか…。
エニシらしい、とイタチは薄く笑う。
ほっとしたような、憎らしいような…。
彼は力なく暁のローブを纏い、家を出た。