第13章 思ってたよりも綺麗な人
「…私は兄の最期を看取ったわけではないですが、永遠の別れを経験しています。それが私の知っている’’痛み’’です。けれど今は、痛みを知る前よりも’’人’’から遠ざかった気がします。」
昔の方が人間味があったような気がする。
「痛みを与えることが正義である、というあなたの考えは半分しか正しくないように思うんです。」
「痛みを知ることが必ずしも成長に繋がるわけではない、と?」
「はい。私は…昔の方がみんなを掬い上げようと我武者羅に頑張れた。けれど、今は自分にとって大事な人さえ守れればそれで満足です。他は生きようが死のうがどうだっていい。痛みを知ったからこその考えです。」
「…恐怖が足りないんじゃないか?」
「守れないかもしれないって恐怖ですか?」
さっきみたいな、どっちかしか守れないって恐怖とか、ってこと?
「虐げられる恐怖もそうだ。」
…果たして本当にそうなんだろうか。
どうしても恐怖や痛みが平和に繋がるなんて思えない。
「私は…十人十色だと思います。それに屈する人もいれば、立ち向かう人もいる。或いはさらなる恐怖で覆いかぶろうとする人もいれば、受け入れて適応しようとする人もいると思います。」
でも、一つだけ言えることがある。
「痛みは痛みを引き寄せます。恐怖は恐怖を、憎しみは憎しみを呼びます。悪感情ほど、それは顕著のように思うんです。類は友を呼ぶ。これは見えない波長が同じ波長を呼び寄せるからなんだと、前世で祖母が言っていました。」
運命はそうやって形作られて繋がっていくんだよって。
良い気を貰いたければ、善い行いをしなさいって。
半信半疑だったけど、今、ちょっと納得してる。
私の中に燻る憎悪の波長が、きっと長門さんへと繋がったんじゃないかと思うから。