第10章 ルーツを探しに出かけましょ
「それでも、人間と交流をしたがる者は出るものでな。そういった者はふらりと外へと出て行っては戻って、を繰り返し、やがて完全に戻らなくなる。」
「大体の人が”恋をした”と口にするのよ。」
「鬼鮫君の気質によく似た人に、ミアという女性がいた。内気で、淑やかな人だったと聞いている。今から150年以上前か。」
年数にもびっくりするけど、今一番引っかかったのはそこじゃなかった。
内気…。
鬼鮫さんが、内気…。
ダメよ、笑ったら色々と台無しよ。
堪えるのよ、エニシ…!
「…覚えておきますからね?」
「ひっ…!」
小さな声に一瞬で笑いが引っ込んだ。
くそぅ。
まだ何もしてないのに…。
「んん゛っ、話を戻すぞ…。ミアは偶々迷い込んだ人間と鉢合わせてな。運良く善良な者だったらしい。その人間とは度々逢瀬を重ねていてな。彼女はある日置き手紙を残して姿を消してしまったらしい。」
「ミアが今のところ、最後の外人(そとびと)となっている。」
「その前は300年ほど前にいたらしい。体格も良く、魔力量も豊富で期待されている青年だったそうだ。だが、幼少の頃から外への期待、人間への興味が尽きない子だったらしい。一度出てそれっきりだったそうだ。」
「200年前にもいたじゃない。」
「あぁ、レスターか。彼も好奇心旺盛だったな。」
「好奇心もそうだけど、人間の女性と恋に落ちてってのが大きな理由でしょ?」
「時々帰ってきてたんだけど、それも今じゃ音沙汰がないわ。でも…もう寿命でしょうね…。」
寂しそうにその人が言うと、周りにいた人も同調を示した。
「それに、外に住むようになってから老けるのが早くなっていかなかったか?」
「言われてみれば…そうかもしれない。」
「外の世界とここでは、魔力に少なからず影響するのかしら…?」
へぇ…。興味深いわ。
人間界とここ、何が違うんだろう。
「人間界の方がそれだけ過酷、ということじゃないかしら?」
その言葉に虚を突かれた気がした。
確かに私の知ってる前世よりも、この世界は残酷だ。
物理的にも弱肉強食の色は強い。
鬼鮫さんなんてもっとそうだったかもしれない。