第10章 ルーツを探しに出かけましょ
「ごめんなさい…。」
殊勝にも素直に謝るエニシに鬼鮫は言葉を失った。
けれども悪い気はしなかった。
それは、エニシの感情が同情ではないように思えたから。
言うなれば”共感”だったように感じられた。
可哀想だと思われることと、同調されることは似ているようで意味が全く違う。
「…すまんな、我々のせいで…。お詫びと言ってはなんだが、幾つかここを出て行った者達のことを話そう。」
鬼鮫はライアの言葉に、最初は聞く気はない、と突っぱねてしまおうかと迷った。
他人であると線引きされた者達のことなど聞く価値もない、と。
けれども、それは感情論のように思えた。
―らしくない。
自身には、感情なぞあってないようなもの。
捨てたものなのだ。
―どうにも引き摺られる…。
エニシのせいだと感覚的に思った。
調子が狂って仕方がない。
人のために怒り、人のために痛みを感じる彼女が傍にいるせいで自分の感情までもが引き摺り出されるようだった。
―癪だな。
鬼鮫は一つ息をつくと、意識して笑みを浮かべる。
いつもの冷たい笑みとなっているだろう。
「…聞きましょう。」
そう返すと、エニシは驚いたように目を見開いた。
「何を突っ立っているんです?あなたが始めたことなんだから、最後までやるんですよ。」
「え、あ、はい…。」
彼女は戸惑いながらも席についた。