第10章 ルーツを探しに出かけましょ
「阿呆ですねぇ。」
「私は笑う気になれませんが?」
何がおかしいのよ。
腹立ててるって言ってるのに!
「すまない。私達に偏見があったことは確かだ。」
その声にそちらを向くと、ライアさんが頭を下げていて、それを周りが驚いたように見ていた。
「確かに君の言うとおりだ、鬼鮫君。我々は血を嫌う。故に血を好む人間達を忌み嫌う。だが君は私達に近い。一族として迎え入れる努力をするどころか始めから線引きしてしまっていた。」
「あなたの懸念は真っ当ですよ。私はあなた方と違い、真っさらではない。これでも血塗られた半生を過ごしてきましたからね。」
どこか自嘲気味に笑う鬼鮫さんを見るのは初めてで、それでいて望んだ半生でもなかったことは垣間見えた気がした。
血霧の里…。
不意に霧隠れがそう呼ばれていることを思い出した。
鬼鮫さんはもしかしたら…いや、きっと血塗られた道しか与えられていなかったんだ。
抗いようがなかったんだとしたら…。
ここの人達は血を嫌う。
つまりは人を傷つけることを忌み嫌う。
鬼鮫さんがその血を濃く引いてるのだとしたら?
それでもその道しか残されていなかったのだとしたら?
『…―言いなり野郎がー…』
斬不斬さんが思ってる鬼鮫さんの印象は、自身を守っている姿だったんだ、きっと。
自分を殺さないと生きていけない世界だったんだとしたら…。
…私にも起こりうる未来だった。
だから、その苦しみが何となく分かってしまった。
苦しくなって、思わずぎゅっと胸元の服を握り込む。
「…何故あなたがそんな顔するんですかねぇ。」
「…それ、は…。」
私のこの感情は、鬼鮫さんにすればありがた迷惑…いや、迷惑そのものかもしれないと思うと、言えなかった。
鬼鮫さんは、答えない私に困ったようにため息をつく。
「安易に人の過去に首を突っ込むからそうなるんですよ。あなたは思慮が浅すぎます。」
「はい…。」
兄ちゃんにも、『よく考えて行動しろ』ってしょっちゅう言われてたっけ…。