第10章 ルーツを探しに出かけましょ
その様子を見ていた彼は、隣にいた鬼鮫を時々見やりながらも唖然とエニシと仲間達を眺めていた。
「…あの子は、いつもああなのか?」
「…何をもって”ああ”なのかは図りかねますが。いつも通りと言えばいつも通りですよ。」
この行動は大して予想外でも何でもない、と鬼鮫は思ったままを口にする。
それを聞いた彼は、益々唖然とした。
「…人間にしては珍しい、と言ったらいいのか…。気兼ねや嫌悪感がまるでない人間も珍しいな…。」
「それだけ根が単純である、とも言えますがね。我々の世界でも概ね珍しいかと。」
彼は、それを聞いて鬼鮫を少し見た後、何事か思案した。
「君は私達を知ってどうするんだ?」
「さぁ。どうもしないのでは?」
「君は君のルーツを知りたいのだろう?」
「私はどうでもいいと思っていますよ。知りたがっているのはあの子の方です。私はあの子のお守りでついてきただけなのでねぇ。」
鬼鮫はそう言うと、さも迷惑だと言わんばかりに渋面を作る。
それを見た彼は、理解できないとばかりに首を傾げた。
「君の事だろうに…。」
長い年月を生きてきた彼にとっては、鬼鮫とエニシの関係はとても不思議なものに写った。
そして、同時に興味を惹かれる。
「我らの住処に来るか?」
「…あの子に聞いたら如何ですか?」
鬼鮫は急に軟化した態度に不審を露わにしながらも、決定権をエニシに委ねる。
彼女の意思など確認するまでもなく分かるのだが、それでもエニシの”行きたい”の言葉を口実としたかった。
気乗りがしないのであれば、”行きたくない”と言えば済む事なのだが、それが何となく出来なかった。
出来なかった、というよりは”避けて通りたかった”という方がしっくりくるのだろう。
“命令だから執行する”、という感覚と似ていた。
誰かの意思を盾にすることで、自我を出さずに済む安心感の方が鬼鮫には拠り所となったのだ。
「そうか…、ならば聞いてこよう。あの子が来れば君も来るんだろう?」
「えぇ…まぁ…。」
鬼鮫が渋々答えると、彼は少し笑ってからエニシの所へと歩いていった。