第10章 ルーツを探しに出かけましょ
それを見ていた鬼鮫は予想外の展開に小さく笑いを零す。
「えーっとですね…。攻撃されて攻撃し返さないってのはそもそもとして、発想がなかったですし…。」
「だからって…!」
「いやいやいや、考えてもみてくださいよ。攻撃されて無抵抗でいろってのは無理がありますよ。自殺願望があるならともかく。私達、村人を期待してたのに、いきなり攻撃されたら、そら反射的にも返してまいますよ。でしょ?」
エニシの我が道をいく受け答えに、その者は憤りに顔を歪めていく。
「〜〜…!先に我らの地に足を踏み入れたのはお前達だぞ!?」
「えぇぇ…?いやいや、だからって問答無用での攻撃に無抵抗は無理ですって。」
どこまでも平行線な予感に、その者は頭を抱えた。
「〜〜…!礼儀がなってない!」
「それは…うーんと…すみませんでした…?んじゃ、この場合の訪問希望はどうやって予約すればいいですか?」
至って純粋な問いに、目の前の彼は益々頭を抱える。
「そんな予約をしようと思わないんだよ!人間は!」
「それじゃあ…、やっぱり突撃訪問するしかないのでは…?…だよね?」
その言い様にちらほらと小さく笑いが起こる。
場の張り詰めた空気が和らいでいくのを感じた彼は、きっとエニシを睨みつける。
「お前は我らを何だと思ってるんだ!!」
「それは…えーっと…。う〜ん…なに人ですか?」
エニシの隣にいた者は、堪えきれないといった風に吹き出した。
「確かにあなた達人間からしたら見慣れないわよね。」
「そうですね。私は鬼鮫さん以外に肌の青い人を知らないですね。あ、続きをやりましょう。」
「お願いするわ。」
そんな長閑なやり取りをしてから、何事も無かったように治療に当たるエニシを見て、彼等の殆どは呆れ半分に笑った。
彼女に怒りをぶつけた者も、仲間達に宥められながらもすごすごと引き下がり、その場は一気に柔和の空気へと変わる。