第10章 ルーツを探しに出かけましょ
鬼鮫さんの後を、ひたすら走り続けること一時間。
海沿いの町を通り過ぎ、町と呼べないような閑散とした場所まで辿り着いた。
「ここ、どこですか?」
速度が速かったから、かなり息切れがする。
久々に息が上がった。
「ここは半魚人の伝承が細々と伝わる場所ですよ。深い霧に包まれる場所として有名な所でね。」
「へぇ…。そうなんですね…。」
いかにも何か出そうな雰囲気…
ん?
「…鬼鮫さん。調べたことないって言ってませんでした?」
「噂くらいは耳に入りますよ。噂でいいんでしょう?」
「はい。…って、もしかしてずっと尾行してました?」
噂を集めてるの知ってるってことは、最初からつけられてたとしか考えられないんだよね。
言ったら、鼻で笑われた。
「まさか、気配に微塵も気が付かないとはねぇ。忍でなくて良かったですねぇ。」
「むっかぁ。えぇえぇ、いいですよーだ。忍への未練なんかミジンコもありませんからー。」
けっ。
…はぁ。とにかくも。
ここからとうしようか…。
「鬼鮫さん、ここの住人誰か知ってます?」
「知るわけないでしょう。」
だよね。
「んじゃ、片っ端から当たってみますかね。」
取り敢えず、村人を発見しないことには何にも情報が集まらない。
さて、と一歩踏み出した時、それを拒むかのように四方八方から濃い霧が押し寄せて、あっという間に呑み込まれた。
まるで霧隠の術のような…。
ギュギギ…
隣から気味の悪い鳴き声が微かに聞こえて、ばっと鬼鮫さんを見上げた。
「おやおや、珍しく鮫肌がうずうずしているようですねぇ。」
楽しそうに言いながら背中の方に向ける視線の先には、一人でにギシギシと動く大刀がある。
「なん…何、で?」
ぶ、不気味過ぎる…。
「どうやら、我々は拒まれているようですよ。」
ってことは…、
「この霧は術か何か、ですか?」
「鮫肌の喜びようを見るとそうでしょうね。」
「えーっと…。ちょっと確認しても?」
「どうぞ。」
「鮫肌って背中に背負ってるその大刀の事ですよね?」
「えぇ。」
「生きてるんですか?」
こえぇよ、もそもぞと。