第9章 久々に血が騒ぐわ…!
鬼鮫は、エニシの部屋までの道を足音を立てずに歩いていく。
今は丁度昼時で、人影は少ない。
見咎められる率は少ないとは言えど、気は抜けない。
彼女の部屋まで来ると、人影がないことを確認して、静かにドアノブを回す。
やはり、と言うべきか。
鍵はかかっておらず、当然罠もない。
彼は内心苦笑しながらも、するりと入り込んだ。
入って真正面のテーブルには水の張られたタライと濡れたタオルが置かれている。
すぐ近くには、うんうんと魘されたエニシが寝ていた。
鬼鮫は持ってきた小さな籠を静かに置くと、タオルを絞り彼女へと近づく。
そして、額に乗せられていたタオルを取り、手をそっと当ててみる。
―熱い…。
平時では考えられない熱さに、思わずため息が出た。
脆弱、という言葉が鬼鮫の頭を掠める。
人から見れば、彼が並外れて頑丈なのであるが…。
「やれやれ…。」
鬼鮫は持っていたタオルを新しく変えて、使っていたタオルをタライに戻す。
一度だけ彼女を見やってから、静かに出て行った。