第9章 久々に血が騒ぐわ…!
エニシの借りていた部屋についたイタチは、彼女をそっとベッドへ横たえる。
「う〜ん…。」
暢気に寝入る彼女を少し恨めしく見たあと、やれやれと苦笑した。
不意に簪が目に入り、すっと外すと、はらりと豊かな黒髪が広がり、仄かに花の甘い香りが届いた。
『エニシは長い髪が似合うと思う。』
幼い自身の声が甦り、口元がわずかに緩む。
覚えていてくれた、などと思わなくもないが、やはりエニシの長い髪の姿を見るのは心がくすがったかった。
彼女の赤い顔をするりと撫で、長い髪を解す。
―俺も酔いが回ってるな…。
少しぼんやりする思考と気怠い体に、イタチはそこから動きたくなくなってしまった。
―本当はこれを渡して帰ろうと思っていたのだが…。
ポケットから、洞窟で取ってきた卵を取り出してため息をつく。
逃げる際に鬼鮫が取って来てくれたのは良かったものの、今頃になって渡して来たのだ。
『今、渡して来てしまったらどうです?』
揶揄いの混じる音で言う鬼鮫の声が甦り、イタチは思わずムッとする。
だが、結局のところ迷った末に来てしまったイタチだった。
同じ館に泊まっていたのも、足が延びた理由の一つだ。
―面倒だ。このまま寝てしまえ。
イタチは重い瞼に逆らえず、上着を一枚脱いでエニシを抱き込むと、何を考えることもなくそのまま眠りに落ちた。