第9章 久々に血が騒ぐわ…!
「…そうか…。」
戸惑いと喜びと、悲しみと親しみと…。
どれとも取れる複雑な表情で、愛おしそうにエニシを見つめる目は優しげに綻んでいる。
ここまではっきりと見て取れるのに自身の気持ちに、エニシの気持ちに気づかないなどとあり得るのか、と二人は疑問に思う。
「…あなたにとって、エニシさんはどんな存在ですか?」
白は我慢しきれずにそっと問いかけた。
イタチはエニシから目を離すと、真っ直ぐに白を見る。
「…友、だな。道標のような、そんな存在…とでも言っておこうか。」
本気で言ってるようにしか見えない彼の様子に、二人は内心唖然とする。
「友、ですか…。」
―本当に気付いてないのか…。
「あいつの言った通りだったとは…。」
「あいつ…?」
斬不斬の小さな呟きにイタチが怪訝な顔を向けると、彼は疲れたように首を振った。
「何でもねぇよ。ほら、お開きだ。行った行った。」
白もそそくさとグラスやら水さしやらの片付けに入る。
「エニシさんをよろしくお願いします。」
ふと、エニシの傍に置いてあるグラスがイタチの目に留まった。
「呑みたいならそれ呑んでけよ。」
イタチは、グラスに少し残った酒を迷いなく口元に運ぶ。
一口含むと、柑橘系の爽やかな甘さと共に強い酒精を感じた。
喉を通り、胃に届いた途端、かあぁっと体が熱くなる。
「…かなり強いな。エニシはこれを呑んでたのか?」
「自分で調合して呑んでたぜ。」
「…まったく…。」
そう言いつつ、イタチは一気に呑み干した。
そして、コトンとグラスを置くとエニシを背負う。
「世話になった。」
それだけ言うと、彼はすたすたと歩き出し部屋から出て行った。
「…ったく、まどろっこしい奴らだぜ。」
「でも意外でした。イタチさんも満更でもないようですし。」
「寧ろ、ここからが大変なんじゃねえか?」
「そうですか?僕にはあと少しに見えるんですが。」
後に、斬不斬の予想の方が当たることとなる。