第3章 久方ぶりの里帰り1
幸いにも涙はすぐに引っ込んだ。
手元を見ると、さっき買った百合の花が目に入る。
私は百合の花を縛っていた紐を解いて、目の前の川面へ足を踏み入れた。
上流だけあって、水の流れは速くて複雑で凸凹だ。
それを慎重に歩いて中腹まで来ると、屈んで、そっと百合を流す。
あっという間だった。
右へ左へ揉まれて溺れて、白い姿は瞬く間に見えなくなる。
何だか忍の世界をそのまま表している様だと思った。
兄ちゃんも然り。
この世界の死はいつだって突然で、ゆっくりお別れなんて出来やしない。
こういう時、前の世界とは違うなぁって実感する。
「届くといいな。シスイやご両親に。」
いつの間にか、カカシ先生も隣に立って、百合が流れていった方を見ていた。
お見通し、ですか。
「そうですね。」
あの百合が本当に届くといいと思う。
特に兄ちゃんは苦労した分、あの世で穏やかに過ごしてるといいな。
私は、そっと手を合わせて目を瞑った。