第8章 暁に依頼します!
どのくらい二人してそうしていたのか。
すん、すん、と鼻を啜る音が聞こえたイタチはエニシから身を離して彼女を覗き込む。
「やだ、ごめん。全然泣く場面じゃなかったのに…。」
彼女は恥ずかしそうに目元を覆う。
その頬には幾筋かの涙の跡が見て取れた。
「エニシ…。」
イタチは彼女の両頬に手を伸ばすと、親指で優しく拭う。
すると、エニシは覆っていた手を離し、驚いたような目を向ける。
「辛いのか?」
イタチの問いにエニシは首を振る。
「違うの…そうじゃなくて…。」
彼女はうろうろと目を彷徨わせながら言い淀んだ後、少し震える口元を開いた。
「最期の夜にね、兄ちゃんに初めて抱きしめられてさ…。影分身だったから…当然心音なんてなくて…。その時と今が被ったっていうか…。なんか、生きてるなぁって安心しちゃって…。」
エニシは少し照れくさそうにぎこちなく笑う。
「ごめん、なんか…。や〜だなぁも〜。何で思い出しちゃったんだろ。」
イタチの手を外そうとエニシの手が添えられて、彼は手にぐっと力を入れる。
「泣いて、いい。」
『だからね、傷ついたままでいることだけはやめてね。』
幼いエニシの声がイタチの耳の奥で響く。
―あの時、言ってくれただろう?
イタチが眉尻を下げて目を細めると、エニシも同じように眉尻が下がった。
―エニシは覚えているだろうか…。
「傷がそれで癒えるなら…。我慢なんて、するな。」
その言葉に、エニシの顔がくしゃりと歪む。
「うぅ…っばかぁ…!いま、それ言ったら…!」
彼女の目から大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていき、イタチの胸がきゅっと締め付けられる。
「大丈夫だ。」
次々に溢れる涙を、イタチはそっと拭っていく。
静かに涙を零しながらも、はく、はく、と息継ぎをしながら懸命に堪えるエニシの様子に、イタチの胸の奥は益々締め付けられる。