第8章 暁に依頼します!
「分かってるけどさ。一回くらいは、って思うんだよ〜。楽しいんだよ?みんなでわいわいと旅行するのって。」
一回でもあの楽しさを味わってほしいなぁ。
ちょっとブーたれた私を見て、イタチはくすりと笑う。
「前世は楽しかったのか?」
「うん、楽しかったなぁ。おじちゃんが休みの日って夏休みの一日しかなくてさ。それが滅多にない遠出のチャンスなの。」
「おじちゃん?」
「そう。私、自分の両親と出かけたことなくてさ。お出かけは親戚との旅行しか記憶にないんだよ。んで、おじちゃんが運転するワゴン車乗って、昼は海で泳いで、夜にはわいわいバーベキューして。民宿みたいな所で子供たちだけで広い一部屋に一晩泊まって帰るってのが夏の恒例行事なの。」
イタチにも一回は経験してもらいたいな、家族旅行。
にっと笑うと、困ったように笑い返される。
「平和な場所だったんだな。」
「そうだね。平和過ぎるくらい平和だったかも。」
私が笑うと、イタチも微笑んだ。
「この世界もそうだったら良かったのにな。」
「そうだね…。時々、あまりに今と乖離し過ぎてて私の妄想なんじゃないか、って思うこともあるよ。」
「そうか…。平和な世界を知っているからこそ、苦しみを感じることもあるだろうな。」
「まぁね。でも、不思議と前の世界に戻りたいって思ったことはないんだよね。」
「そうなのか?」
イタチの意外そうな顔に、私はくすりと笑う。
「うん。おばちゃん達に会いたいなって思ったことはあるけど、それだけ。前の世界そのものに焦がれたことはないのよ。」
改めて考えると不思議だなって思うけど、その理由にはすぐに思い当たる。