第3章 久方ぶりの里帰り1
―さてと、どうしたもんか…。
カカシは、ほっとした様子でゲンマの後ろ姿を見送る彼女を見遣る。
「で、今までどこにいたのよ?」
その一言で、ピクリと体が動き、カカシから一歩離れる。
そして、彼の問いかけを無視して何やらぶつぶつと独り言を呟きながら考え込んでしまった。
カカシは、そんな彼女に呆れつつ質問を変えようと口を開く。
「どこに行きたいの?」
何が意外だったのか、ぱっちりした目を見開いてこちらを見た。
だが、その視線はすぐに外れてしまう。
そして、逡巡を見せた後、漸く口を開いた。
「あー…、いや…。特にこれといって行き先はないです…。」
だが、出た言葉は何とも暢気な言葉だった。
危機感がないのだろうか、と半ば本気で彼女が心配になる。
カカシは先の問いを繰り返そうと質問を重ねる。
「今までどこにいたの?」
「どこって…、銭湯の周りをぶらぶらと?」
首を傾げる彼女に、おいおい、とカカシは内心突っ込んだ。
「ゲンマに目をつけられるほど、ぶらぶらと?」
カカシが鸚鵡返しに聞き返すと、彼女は漸く考えが至ったのか、罰が悪そうに顔を背けた。
「まぁ…、そうなりますね。」
その仕草に、カカシの中で彼女の正体が確信に変わる。
―こいつ、エニシだな。
何の疑いもなく、すんなりと答えに至る。
懐かしい匂いを纏い、見覚えのある顔に、聞き覚えのある声。仕草まで昔のままならば、疑う余地はない。
―相変わらずだな。
その事がカカシを安堵させる。
あの、うちはの事件後、一族の生き残りはサスケしか見ていない。
彼はイタチへの復讐に取り憑かれており、精神的な揺らぎを常に秘めている。
見ていて危なっかしく思えてならないのだ。
その危うさがエニシに無かった事が、純粋に嬉しかった。
「ま、とりあえず、里を案内するよ。」
カカシが歩き出すと、あからさまにほっと息をつくエニシ。
その様子に、彼は思わずくすりと笑った。
「…お願いします。」
少し警戒しながらも、エニシが後をついてきた。