第6章 逃がさないんだから…!
「馬鹿が。」
グサリとした感触を受け、サソリの目が見開かれる。
イタチは、クナイを振り上げたまま、胸には深々と刃が刺さり、口元からは僅かに血が垂れ流れている。
「…とことん馬鹿だな、本体で正面から来るとは。」
そう言ってイタチを放り投げると、エニシの方を見る。
「……!?」
だが、そこはもぬけの殻だった。
エニシを掴んでいた筈のパーツが破壊されているにも関わらず、その感触さえ感じ取れなかった。
―どうなっている!?
サソリは周りを見渡すと、まず目に入ったのは虚な目で立っているデイダラだった。一目で幻術に嵌ったのだと分かる。
とすれば、自身も幻術に嵌ってしまったのだろう。
「ちっ…!」
視線をずらすと、デイダラの影に隠れる様にイタチはいた。
傍には、横たえたエニシの姿がある。
「そいつをよこせ。」
サソリの歩みにイタチはしゃがんでいた身を起こし、エニシを庇う様に立ち塞がる。
「断る。」
「それは俺の人形だ。」
まるでエニシが既に死んだかの様なサソリの言葉に、イタチは僅かに眉を顰める。
サソリの人形は、死体をカラクリに作り変える事で生前そのままの能力を遺憾なく引き出すことができる。
「…違うな。これは俺の”物”だ。どう扱うかは俺が決める。」
サソリはイタチの言葉を聞き、疑い深く目を眇める。
言い様は冷徹だが、つまりは”手を出すな”ということだろう。
普段のイタチには執着が無く、捉えどころがない。その為、この言葉が本当にエニシを”物”として見ているのか否か、判断がつきにくい。
もしも、エニシがイタチの…繋がりとしての拠り所なのならば、或いは彼の弱点に成り得るのだが…。
―さて、どうしたものか…。
「…何故、”それ”に拘る?同族だからか?」
サソリは敢えてエニシを”物”として言い捨てる。そうする事で、エニシだけでなく、彼女と同族であるイタチをも貶めたのだ。
だが、イタチはそれに一切の反応を示さなかった。