第6章 逃がさないんだから…!
暫くして、さっきの男が向こうから歩いてきた。
「気分はどうだ?」
…何聞いてんの、この人。
「気持ちいいだろ。天国が見られるって評判がいいんだ。」
クスリの感想を聞くとか趣味悪い。
勝手に人の体に打ち込んどいて。
私が演技の為に、それっぽく振る舞うと、またあのニタリとした嗤いを浮かべる。
「もっと欲しければ、俺にも昼間やったアレを施せ。」
目的は秘術?
何にせよ、碌なもんじゃないな。
実は私、人には言えない褒められたもんじゃない癖がある。
それが発動すれば、この局面は幾らでもひっくり返せる。
だけど、それが発動している間は意識が無くなっちゃうんだわ。
だから、その前にこの人から話は聞いておきたい。
まぁ、胸糞悪い話にはなりそうだけど。
「な、んで…、こんな、こと、を…。」
丁度声が掠れてて良かった。
いい感じにやつれた声が出たわ。
「決まってるだろ。富が欲しいからだよ。」
はぁ…、クズだな。
私が黙っていることをいい事に、男は続ける。
「秘術は俺が一番ふさわしいんだ。大体が、この村を治めるのは元々は俺の家系が受け持つ筈だった。それがどうだ。」
男は鉄格子の向こう側でしゃがみ込んだ。
「今や村人が決める”ふさわしい者”が治める風習になっちまった。慣習であれば俺が長になる筈だったのに。」
…言っちゃなんだけど、それ普通じゃない?
実力がある者や人格者として優れてる人が選ばれるなんて自然なことじゃん。
「馬鹿くさいと思わないか?俺の地位に我が物顔で踏ん反り返るあいつらが。憎たらしい。それだけでも我慢ならないってのに、次の長はリニに決まりだとよ。」
男を見上げると、ギラついた目を血走らせて憎々しげにこちらを見ていた。