第6章 逃がさないんだから…!
「ど、どうしよう。」
イタチが泣いてる。
何の場面?
兄ちゃんの場面?
一族全滅の場面?
あぁぁぁ、どっちにしても追体験していい事は一つもない。
「イタチ?戻ってきな。痛い思いしなくていいよ。」
私はイタチの頬にそっと手を当てて、流れた一筋の涙を親指で拭き取る様に掬い上げる。
「イタチ…。」
戻ってきて…。
祈る想いが通じたのか、イタチの瞳に光が戻ってきた。
「良かった…。」
あとはちゃんと起きれれば…。
「エニシ…。」
イタチがそっと私を呼ぶ。
「おかえり、イタチ…。」
私もそっと返して、出来るだけ明るく笑う。
「あぁ…。」
そう返してきたと思ったら、何を思ったのか、イタチは私をぎゅっと抱きしめてきた。
「……!?」
一瞬びっくりして体が強張ったけど、すぐに思い止まった。
私だって目覚めた時にぎゅってしてもらえてどんなに安心したことか。
私は黙ってイタチの背に腕を回すと、ぽんぽんと静かにあやし始めた。
「大丈夫。ここにいるよ…。」
一人じゃないよ。
そう、思いを込めて。
私はイタチが落ち着くまで、暫くそうしていた。