第6章 逃がさないんだから…!
瞬間的に自身のいた場所が変わる。
虚空の様な漆黒の空間に、ぽつねんとイタチは取り残されていた。
自分の姿以外に見えるものは何も無い。
ふむ、とイタチは観察する。
チャクラの流れ、空間の動き。
どれをとっても糸口はまるで見えない。
しばし待ってみようと、何も考えず頭を真っ白にする。
すると、
「…始まったか。」
漆黒だった世界に色が差し入られる。
それはやがて、赤く染まった満月を映し出した。
暗闇に眠る、かつてのうちはの村。
道端に転がる肉塊と成り果てた一族達。
「これ、か…。」
自身が最も辛いと思う記憶がこの光景で、イタチは心のどこかでほっとする。
彼にとって、この記憶だけは風化させてはならないという思いがあった。
それは、ある種の強迫観念にも似た思いだろう。
映像はいつの間にやら自身の視点と同化し、いつかの感覚すら生々しく蘇る。
それは道を辿り、生家へと辿り着く。
イタチはその手で、父を母を深々と貫いた。
殺したくはなかった。
けれどもどうにもならない、もう後戻りのできない選択だった。
あの日の覚悟が、イタチに苦悶の痛みを齎す。
「父さん…。母さん…。」
父母から広がる赤の海がイタチの心臓をきつくきつく締め付ける。
「父さん!!母さん!!」
飛び込んできたサスケの姿に、イタチの心が更にぎしぎしと軋む。
「愚かなる弟よ…。」
本当は言いたくない言葉を、イタチは軋む心の音を聞きながら淡々と吐き出す。
「この俺を殺したくば恨め!憎め!そして醜く生き延びるがいい…。」
どうか生きてくれ。
そう願いながら言葉の刃を愛しい弟に浴びせる。
それしか大事な弟を生かすすべがなかった。
イタチの出来得る精一杯だった。