第6章 逃がさないんだから…!
イタチは真っ直ぐに歩いてきて私の真横に並ぶと、円の縁をなぞる様に指差した。
「ここだ。」
「分かるかこんちくしょう。」
思わず泣き言を言いたくなるくらいに小さく、それはもう小さく隠す様に”丑””寅””子”の文字が見て取れた。
それも行書の様な崩し文字の様な読みずらい形で。
「お前な、分かる様に書いたら暗号にならないだろう?」
「分かるけどさ〜。」
ほんとにね、青白い光の模様に隠れる様に、うまーく隠して書いてあるんだよね。
これじゃ分かんないよ。
「読み取ってほしい人に読めなきゃ意味ないと思うのは私だけ?」
思わずムッとしてしまったら、イタチに少し笑われた。
「読み手の事を考えたら、読み取ってほしくない奴にも読める様になるだろうな。」
そうかなぁ。
だったらせめてヒントくらい別の場所に残しとけばいいのに。
はぁーあ。
…あれ?
いや待てよ?
「…イタチには読み取られてもいいのかって話にならない?」
だって、イタチは一族の人じゃないじゃん。
まぁ、私が引き込んだんだけど。
伺い見ると、イタチは僅かににっと笑った。
おぉ、珍しい笑い方。
「見破られたくなかったのなら、もっと複雑な術式にすれば良かったな。」
「わぉ。言い切ったね。」
ふはっと思わず吹き出した。
いつも控えめなイタチは、自信満々に何か言ったりする事は珍しい。
それこそ、私たち兄妹にしか見せない彼なりの戯けだったりする。
よくそれで笑い合ったなぁ。
「…お前たちは、そっくりだな。」
ぽんぽんと頭を撫でられた。
それも憧憬を含んだ微笑で。
「兄ちゃんと?」
そういえば兄ちゃんと笑い方が似てるってよく言われてたっけ。
兄ちゃんに生きててほしかったなぁ、とか思ってそうだなぁ…。
とか思ってたら、ぴたっと手が止まった。