第6章 逃がさないんだから…!
「おかえり〜!」
エニシの声が聞こえて見上げると、少し上の階の窓から彼女が手を振っていた。
イタチが軽く手を上げると、エニシはその窓から飛び降りて、ストンと着地した。
「おつかれさま〜。怪我はない?」
エニシは穏やかに笑いながらイタチ達を迎える。
殺伐とした空気が霧散するほどに朗らかな声だ。
「問題ない。」
「さっすが〜。依頼達成は余裕そうだね。」
イタチの答えに、エニシは屈託ない笑顔を見せた。
「あ、ねぇ。帰ってきて早々悪いんだけど、ちょっと聞きたい事があるんだよね。特に長さんに。」
そう言って、エニシは後ろ隣にいた長の方を向いた。
「…俺…?」
「そう、俺〜。」
屈託ない笑顔を向けられた長は、たじろぎながらも少し嬉しそうな顔をする。
イタチはそれを、冷たく横目で見遣った。
面白くない絵面なのだが、不当な理由もない。
そして、理由もなく面白くないのがまた不愉快だ。
「あ、イタチも一緒に見てほしいんだよね。できれば、知恵を貸してもらえるとありがたい。」
にっと笑うエニシに真っ直ぐな言葉をかけられて、イタチの胸に漂い始めた不愉快さがすーっと消えていく。
「私も行ってもいいですよね?」
鬼鮫がぬっと顔を出すと、エニシはぎくりとたじろぎながら、少し顔を引き攣らせた。
「た、他言無用でお願いします…。」
イタチは良くて鬼鮫は不味い、と言っている様なもの。
鬼鮫にはそれが少々気に入らない。
反対にイタチは内心嬉しく思う。
傍目にはまるで無表情だが、彼の胸の内は暖かだった。
「何処となく不愉快ですね。」
鬼鮫が皮肉気に笑うと、エニシは気まず気にすっと目を逸らす。
「す、すみません…。ここだけの話にしてくれるなら幾らでも教えられるんですけど…。」
―成程。つまり暁に知られたくないのか。
イタチはそこで、初めてエニシの話に興味が湧く。
長に話を聞きたい事で、自分に知恵を貸してほしい事。
未知の術か何かが見つかったのだろうか、とイタチは推測する。