第6章 逃がさないんだから…!
イタチが必死でこじ開けられようとする戸を閉じていると、
「何をやってるんですか?」
鬼鮫の呆れた声が背中から聞こえてきた。
彼は助かったとばかりに、バッと振り向く。
「エニシが…!」
「知ってます。声で分かりますよ。何を遊んでるんですかって聞いてるんです。」
鬼鮫の言葉が効いたのか否か、エニシの動きが止まった。
かと思えば、突然戸から手を離したものだから、イタチは前につんのめる。
だが、次の瞬間…。
ドカンッ!!!!
イタチが押さえていない方の戸が木っ端微塵に吹き飛んで、大きな風穴の向こうから、ドスンッと音を立ててエニシが現れる。
そして、怒りの形相が鬼鮫に向けられたと思いきや、
「こんの…!裏切り者がぁぁぁ!!」
突然彼を怒鳴りつけた。
「はぁ…?」
当然、鬼鮫は困惑している様子。
エニシはそんな様子にもお構いなしに、ずんずん距離を縮めていく。
「はぁ?じゃないですよ!何でイタチを止めてくれなかったんですか!?病状が酷いって知ってるでしょ!本来、出歩いちゃいけないくらい酷い状況なんですよ!布団で絶対安静が普通です!仕事なんて以っての外です!ドクターストップなんです!!」
口を挟む暇もなく、早口で捲し立てる様に怒鳴りつけるエニシを見遣りながら、鬼鮫はやれやれと煩そうに片耳塞いでため息をつく。
「面倒な人ですね、そもそも裏切り者の定義を分かってますか?」
「イタチが病気の巣窟って分かってて外に出したんだから裏切り者です!!」
「違いますね。盟約や約束を反故にして不利を齎すから裏切りなんです。元々私はあなたとは何の関係も約束も交わしてませんから、そのような…」
「知るかあぁぁぁぁ!!あんた、イタチのパートナーでしょうが!!なんでイタチの病状を悪化させる事を手伝うんですか!!」
人の話をまるで聞くつもりがないエニシに、鬼鮫は呆気にとられる。
まるで、人語の通じない獣を相手にしている気分だ、と彼は思う。