第6章 逃がさないんだから…!
「…たち……ん、…イタチさん?」
鬼鮫の呼びかけで、イタチはふと我に返る。
「あ、あぁ。すまない。」
鬼鮫とターゲットの会話が耳に入っておらず、状況がまるで分からない。
黙って見上げていると、ふぅ、と鬼鮫はため息をついた。
「今日は私がやりましょうか?」
それはそれで思うところがあるが、他人を頼らず任務を完遂しなければ、という観念よりも、気乗りがしない、やりたくない、といった無気力に似た感情の方が勝った。
「…そうだな。…後はお前に任せる。」
イタチは言い残すと、くるりと踵を返す。
「ま、まってくれ…!た、たのむ!」
「往生際が悪いですよ。」
鬼鮫が男の前に立ち塞がると、姿はすっぽり隠れて見えなくなる。
だが、あの目障りな姿が見えない方が今は楽だった。
断末魔とも言える様な、不快な声が響き渡る部屋を後にし、イタチは外へと向かう。
エニシを撒いてから二日経った。
だが、思い出されるのはエニシの顔ばかりだ。
何故こんなにもこびりついた様に頭から離れないのか、と焦燥にも似た苛立ちが募る。
これだけ離れてしまえば、もう会う事はないだろう。
探したくとも探せない筈だ。
これで良かったのだ、と自身に言い聞かせているのに、上手くいかない。
何故か罪悪感や喪失感が湧き上がる。
―何故だ…。
不意にふわりとエニシの気配を捉えて立ち止まった。
―そんな、筈は…。
だが、その気配はすぐになくなってしまう。
―気のせいか?
イタチはまた歩き出した。
足音を殆ど立てないまま、すたすたと玄関へと向かう。
そして、ガラガラと戸を開けた瞬間、
「……!?」
「はぁ〜い♪患者さん。突撃☆診療です♪」
手をひらひらと振るエニシの姿が…。