第1章 プロローグ
「……そうだよ?何回も言ったじゃん」
「エースには言ったの?」
「………」
マキノからの言葉に私は返答できず、口をつぐんだ。
その様子を見て、彼女は説得するような表情で私の肩を掴む。
「本当に言わないつもり!?
海に出たら……敵同士になるのよ?」
「その方が……私にとっては好都合だもん。
この気持ちだって、きっと消えてくれる」
「………アンナ!」
「ごめんなさいマキノ。あなたには本当に感謝してる。私の相談にいつも乗ってくれてありがとう。……そのおかげ今まで過ごしてこれた」
アンナは自分の肩を掴むマキノの手をそっと握り返した。
その様子をみたマキノは、心臓をきゅっと締め付けられる痛みを感じた。
なぜなら彼女の笑顔が
必死に涙をこらえているように見えたからだ。
そんな表情を見せるぐらいエースのことを想っているのに
なぜ自分から離れるようなことをするのか
マキノには理解できなかった。
「これで本当に後悔しない?」
そうアンナに問いかけると、彼女は先ほどの表情のまま首を縦にして頷いた。
「うん…しないよ。ずっとこうするつもりだったんだもん」
そんなアンナを見てしまったら当事者でもない自分にはこれ以上口出しはできない。
マキノは目の前にいる彼女をぎゅうと強く抱きしめて、少しでも彼女が背負っているものが軽くなりますようにと願うことしかできなかった。