第3章 芽生え始めた想い
2人分のコーヒーを淹れ終わって、スモーカーさんの部屋にたどり着いたアンナ。
「ふう……」
これは仕事、仕事中に私情は持ち込まない。
今も残り続けるモヤモヤを押し込め、深呼吸をした後いつも通り扉をノックした。
コンコン…
「アンナです。お飲み物をお持ちしました」
「あァ…入っていいぞ」
がちゃりと扉を開けると、自分の椅子にいつものように座っているスモーカーさんと、その前に腕を組んで立っているヒナさんがいた。
「お話の途中ですいません」
「気にしなくていい。…それより、修繕は進んでるか?」
「あ、はい!6割ほど進んでますので、今日中には直せるかと……」
修理の進捗状況を答えながら、ことん…と机にティーカップを2つ並べる。
「そうか。…こいつが迷惑かけたな」
「ちょっとスモーカーくん、こいつはないんじゃない?」
「迷惑かけてるのは間違ってねェだろう」
やいやいと目の前でちょっとした言い合いを始める2人。
その様子をみたアンナの胸に、また胸を締め付けられるような痛みが走る。
同時に、さっき抑え込んだモヤモヤが再び自分の胸中を埋めつくしていって……
「ほら、あなたが怒鳴るから彼女黙っちゃったじゃない」
「だからてめェが……!」
言い返そうとするスモーカーさんを無視して、ヒナさんが私の前にやってきた。
「…あなた、名前は?」
「えっ」
「名前。さっき聞くの忘れちゃったなと思って」
にこりと笑う彼女を見上げると、綺麗な瞳と視線が絡み合った。
見れば見るほど本当に綺麗な人だなとアンナは思った。
さらさらの桃色のストレートヘアーも
きりっとした目元も
出るところが出た抜群のスタイルも
比べる必要がないのに、自分と比べてしまって
すべてにおいて自分が劣っている気がしてしまう。