第3章 芽生え始めた想い
カンカンカーン…!
いま私はヒナ大佐によって壊された扉の修繕を行うべく、壁に釘を打ち込んでいる途中だ。
作業の間、ヒナ大佐がどんな人なのかを知らない私に、たしぎが色々教えてくれた。
彼女は「黒檻のヒナ」のという異名をもち、これまた悪魔の実を食べた能力者だという。
自らの体をすり抜けた相手に鉄の錠をはめて拘束することができるという、捕縛に関しては右に出る者がいないほど有名な方らしい。
そして、あのスモーカーさんとは腐れ縁で、海兵学校時代からの仲だという。
「スモーカーさんは、ほら…ああいう感じでしょ?だから政府上層部の人からはあんまりよく思われていなくて…。
そこをいつもフォローしてくれるのがヒナさんなんです」
そう説明してくれるたしぎの言葉の節々に、尊敬の念を感じられて、きっと彼女も何度も助けてもらっていることが予想できた。
彼女が優秀な海兵で性格もいい人であることに間違いない。
……でもなぜだろう。
あの人とスモーカーさんが隣に並んだ時、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような、そんな痛みが走って、少し苦しくなってしまって。
今まで抱いたことのない感情に、自分でも驚きが隠せなかった。
そんな気持ちを気づかれたくなくて、無言で黙々と作業を続けていると、たしぎが不思議そうにこちらを見てくる。
「アンナ……?」
「ん?…どうかした?」
「いや…いつもより表情が険しい気がしたので。もしかして体調悪かったりする?」
たしぎの指摘にどきりと胸が鳴る。
「そ、そんなことないよ。
……あー、ずっと細かい作業してたからかな、」
「それならこの辺は私がやっておきますよ。代わりといっちゃなんですが、スモーカーさんの部屋に2人分のコーヒーを持って行ってくれませんか?」
2人分。
スモーカーさんとヒナさんの分だ。
「…うん、わかった。じゃあここはお願いするね」
さっきの痛みがまたアンナの胸に走る。
それを抱いたまま、小走りで給湯室へと向かった。