第2章 初めての異動
そわそわしながらしばらく待っていると、がちゃりという音と共に両手にマグカップを持ったスモーカーさんが部屋に戻ってきた。
「あ、ありがとうございます……」
「元々は、俺が押し付けた仕事だからな」
「い、いや、そんなことは……」
「お前な……言葉と表情が全然違ってるぞ?」
「え」
スモーカーの言葉にぎくりとするアンナを見て、彼はふっと小さく笑った。
「まァいい。正直なことはいいことだ」
「すっ、すいません……」
おずおずと差し出されたマグカップを受け取って、そのままカップに口をつけコーヒーをすする。
するとコーヒー特有の苦さが口に広がり、一気に眠気が覚めていく気がした。
それにしても、
「苦がすぎ…」
スモーカーさんが淹れてきてくれたのはブラックで、普段ミルクや砂糖をいれる自分にとっては、思わ口に出してしまうほど苦かった。
それをからかうようにスモーカーさんは言った。
「お子ちゃまにはまだ早かったか?」
「子供って…もう私20歳ですよ?」
「俺から見たら、まだガキだろ」
「むっ……」
たしかスモーカーさん、32歳って言ってたな…
上司の年齢を思い出しながらも、一回りも違うことを再認識する。
「そうやってムキになるところも、ガキだな」
スモーカーさんは残っていたコーヒーを一気に流し込むと、アンナの頭をぽんと叩き自分の机に戻って、また資料に目を通し始めた。
「……ムキになってないもん」
上司の耳には届かないような小さな声で言い返した後、アンナもコーヒーを飲み干して、仕事を終わらせるべく机に戻って、資料の山に向かい直った。